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新規変異株『サブクレードK』について

今年の冬はいつもと違う?
― 新しいインフルエンザ『サブクレードK』について知っておきたいこと ―

現在、インフルエンザシーズンど真ん中の季節となりました。今年は例年と少し様子が異なり流行開始が早く、『過去10年で最も厳しいシーズンになる可能性がある』という声が上がっています。そこで注目されているのが、2025年夏に突然登場した新しい変異株 『サブクレードK』 です。

この記事では、小児科の視点から
・サブクレードKとは何か
・なぜ警戒が必要なのか
・今年のワクチンはどこまで効くのか
・家庭でできる具体的な対策
などを、出来るだけわかりやすくまとめてお伝えします。

1. 新規変異株『サブクレードK』ってどんなウイルス?
■ 1-1. もともとはインフルエンザA/H3N2の“変身バージョン”
『サブクレードK』と横文字で表現されるといかにも強そうな印象を受けますが、実際には従来のA型H3N2の表面構造の一部が変わったという亜系統の一つです。具体的には、ヘマグルチニン(HA)と呼ばれるウイルス表面の「顔」にあたる部分が複数同時に変化したことで、これまでの免疫が認識しづらくなっています。そもそも、サブクレードとは、同じインフルエンザ型の中で、似た特徴を持つウイルスをまとめた“細かい分類グループ”のことです。これは、医療・研究の現場では流行予測とワクチン選定に欠かせない指標となっています。

※『サブクレード』とは?
インフルエンザウイルスは、長い時間をかけて少しずつ姿を変える(=変異する)生き物です。その「どの系統から生まれた変異なのか」を整理するために、世界中の研究者が 家系図のようにウイルスを分類 しています。

●型(H1N1 / H3N2 など)
 → 最も大きな分類

●クレード(clade)
 → 型の中の大きなグループ

●サブクレード(subclade)
 → クレードの中で、さらに近い特徴を持つ小さな枝分かれ

●亜系統(lineage / genotype)
 → さらに細分化されることも

つまり、サブクレードは『似た変異パターンを持つウイルスたちの“グループ”』と考えるとイメージしやすいです。


■ 1-2. パンデミックではないが『大きめのドリフト』
インフルエンザの変化には2種類あります。
・ドリフト(連続変異):少しずつのマイナーチェンジ
・シフト(不連続変異):まったく別もの級の大変化 → パンデミックにつながる
サブクレードKは後者ではなく、『メジャーなドリフト』に分類されます。“ちょっとした衣替え”ではなく“かなり大胆な衣替え”をしたため、免疫の目をごまかしやすい状態になっている、というイメージです。しかし、怖がり過ぎる必要はありません。『いつも通り、注意深く』が正しい姿勢です。

2. 何故サブクレードKは注意が必要?
― 専門家が示す3つの理由
■ 理由1:免疫をすり抜ける力が強まりやすい
過去の感染やワクチンで作られた免疫が、K株の“新しい顔”を認識しにくくなっています。
いわば、警備員(免疫)が「見たことない顔だな?」と戸惑ってしまうイメージです。

■ 理由2:感染力がやや強い
感染力の強さの指標に基本再生産数(R0)がよく用いられます。
・通常の季節性インフルエンザ:R数 約1.2
・2009年の新型インフルエンザ:R数 約1.4
今回のサブクレードKも2009年の新型インフルに準じて考えるとよさそうです。
R数が1.2から1.4になるということは、100人感染すると120人に広がるのが通常のところ、今年は140人に広がるというイメージです。
この“少しの差”が大流行の規模を大きく左右します。

■ 理由3:もともとH3N2は高齢者で重症化しやすい傾向
H3N2は他の型より症状が強く出やすい型で、特に高齢者などでは注意が必要です。また近年H3N2の流行が少なかったため、多くの人でこの型への免疫が低下している可能性があります。

3. 今年のワクチンは効くの?
― 『完全一致ではないけれど、今年こそ重要』な理由
■ 3-1. ワクチンはサブクレードKの登場前に設計された
今年のワクチン株の決定は 2025年2月、しかしサブクレードKが確認されたのは 2025年6月。
そのため、今シーズンのワクチンは K株と完全には一致していません(ミスマッチ)。
科学的には、ワクチンは古いH3N2亜系統(J.2)を基に作られており、K株が変化した『重要部位』はカバーしきれていません。

■ 3-2. それでもワクチン接種が『超重要』とされる理由
・重症化・入院を減らす効果が期待できる
 感染そのものを100%防げなくても、症状を軽くし、回復を早めることができます。
・サブクレードK以外のインフルエンザにも有効
 同じシーズン内でウイルス株がスイッチすることはよくあり、AH3株以外のH1N1やB型など、冬に流行しうる他のウイルス株から身を守る働きがあります。

「少しの防御でも、無いよりずっと良い」
 “完全防御じゃなくても、あるのと無いのでは雲泥の差”。
 今年は特に、この“少しの防御”が大事な壁になります。

4. 家庭でできるインフルエンザ対策
― 今日からできる3つのポイント

・ワクチン接種を検討する
まだまだ間に合います。注射でもフルミストでも、お早めの接種をお勧めします。

・症状を知り、早めに行動
H3N2型は症状が強く出ることがあります。「ただの風邪かな?」と思っても早めにご相談を。
発症早期に抗ウイルス薬が有効なこともあり、受診のタイミングは大切です。

・無理をしないことが“いちばんの優しさ”
体調が悪いときの登校・出勤は、
「自分もしんどいし、周りにも優しくない」
…ということで、ここは思い切って休むことが大切です。


<まとめ>
正しい知識と適切な行動で、この冬を乗り切りましょう!
● H3N2型の“大きめのドリフト”によりサブクレードKが出現
● ワクチンは完全一致ではないが、重症化予防としては非常に重要
● 症状に気づいたら早めに休む
● 早期の診断と重症度評価が重要

年末にかけて大事なイベントが多い時期かと思いますが、『無理をしないで早めに休む』という基本行動が感染拡大を防ぐ大切なポイントです。
今年は例年以上に変化の大きいシーズンですが、『知ること』『備えること』『休むこと』、この3つを徹底することで、ウイルスの脅威をしっかり抑えることができます。

当院併設の病児保育室も連日混みあっていますが、是非ご利用ください。
本記事が少しでも皆様の参考になれば幸いです。
皆で冬を楽しく充実したものにしましょう。

院長 山岡正慶

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