妊婦さんのためのワクチンガイド
〜赤ちゃんとお母さんを守る大切な予防接種〜
★なぜワクチン接種が大切なのか?
妊娠中に接種できるワクチンは、お母さん自身を感染症から守るだけでなく、お腹の赤ちゃんにも免疫を届けることができます。特に、RSウイルスワクチンと3種混合ワクチンは赤ちゃんの健康を守るうえでとても重要です。
また妊婦さんは体内に赤ちゃんと共存する状態なので特殊な免疫状態にあるとされます。そのため、インフルエンザや麻疹などのウイルス感染によってお母さん自身が重症化するリスクが高いとされています。そのためにこれらのワクチン接種も大変重要です。
<妊婦さんに推奨するワクチン>
■ RSウイルス(RSV)ワクチン
〇 RSVとは
RSVは乳幼児の肺炎や細気管支炎の主な原因となるウイルスです。特に生後1歳未満の赤ちゃんは重症化しやすく、入院が必要になることもあります。
〇 妊娠中に接種するメリット
• お母さんが免疫を持つことで、赤ちゃんへの感染リスクを低減し、重症化を抑制します。
• 赤ちゃんが生まれてから最初のRSV流行期に感染するのを防ぐ効果が期待できます。
〇 どうすべきか?
•成人用 RSVワクチン(アブリスボ®)を妊娠24〜36週の間に接種します。
■3種混合ワクチン(Tdap)
〇 対象疾患は破傷風・ジフテリア・百日咳、特に重要なのは「百日咳」!
百日咳は激しい咳が長期間続く感染症です。大人は症状は長いものの比較的軽症で済むことが多いですが、生後数か月の赤ちゃんが感染すると重症化し、命に関わることがあります。その名の通り咳などの呼吸障害が有名ですが、重症例では呼吸器症状だけでなく強い炎症が脳や全身にも及ぶことがあるとされます。大変残念なことに、2024年の中国での大流行の際は多くの赤ちゃんが命を落としました。
〇 妊娠中に接種するメリット
• お母さんが免疫を獲得し、百日咳に感染するリスクを減らせます。
• 赤ちゃんにも抗体を届け、生後すぐから百日咳の予防が可能になります。
〇 どうすべきか?
• Tdapワクチン(Boostrix®)を妊娠27〜36週の間に接種します。
〇 日本における問題点
• 日本ではTdapワクチンが承認されていないので、個別で輸入し接種する必要があります。
• 似たワクチンで『三種混合ワクチン:トリビック®』というものがあります。これは通常小児に接種する国産ワクチンですぐに手に入りますが、妊婦さんでの有効性や安全性の検証が乏しく、この薬剤での接種は強く推奨できるものではありません。
• Tdapよりトリビックの方が含有されるワクチン成分が多く、有害事象の出方に差があると言われています。
• Tdapでの接種希望の方は当院でも取り扱い可能ですのでお申し出ください(準備に少しお時間いただきます)。
■ インフルエンザワクチン
〇 妊婦さんのインフルエンザ感染とは
• 妊婦さんは赤ちゃんが体にいるために免疫が弱まっているとされ、強い炎症が起こるインフルエンザ感染では重症化のリスクが高いとされています。
• インフルエンザウイルスそのものは胎児には直接的な影響はないですが、母体の具合が悪くなることで早産や先天的な疾患のリスクになると言われています。
〇 妊娠中に接種するメリット
• お母さん自身の感染率を低下させ、万が一感染しても重症化のリスクを軽減できます。
• 上記ワクチンと同様に生後早期の赤ちゃんにも母体由来の免疫で守ることができます。
〇 どうすべきか?
• インフルエンザワクチンを流行期前(通常は10~12月)に接種します。
• 妊娠週数に指定はなく、いつでも接種可能です。
※ワクチンは従来の『不活化ワクチン』に限定され、最近販売された『経鼻噴霧型生ワクチン』は接種不可です。
<妊娠前に接種すべきワクチン>
■ MR(麻疹・風疹)ワクチン
• 麻疹(はしか)はインフルエンザと同様に妊婦さんは重症化すると言われています。皮膚の発疹だけでなく、重症肺炎や脳炎になることがあります。
• 麻疹ウイルスそのものは赤ちゃんにも影響を及ぼすと言われています。
• 風疹は母体での重症化リスクはありませんが、赤ちゃんに大きな影響が出る(先天性風疹症候群)とされます。
• 風疹の嫌なところは感染しても無症状のことも多い(約15%)ことです。知らないうちに感染していて赤ちゃんがやられてしまうことがあります。
〇 妊娠前に接種するメリット
• MRワクチンはインフルエンザのように『接種したのに罹患した』ということがまずありませんので、お母さんの身を確実に守り、赤ちゃんへの影響を防ぎます。
• このワクチンは『生ワクチン』なので、妊娠後の接種は赤ちゃんに影響が出る可能性があり危険です。必ず妊娠前に接種します。
〇 どうすべきか?
• ワクチンの接種回数の確認と麻疹と風疹の抗体価検査をします。妊娠を経験された場合は妊婦健診で抗体価検査を既にされていることが多いです。
• 抗体価検査がまだの方は当院で検査が可能です。
• ワクチンは必ず妊娠前に接種します。
• このワクチンは『生ワクチン』なので、妊娠後の接種は赤ちゃんに影響が出る可能性があり危険です。
• 接種後4週間は避妊が必要とされます。
ご不明な点やご不安なことがあれば遠慮なくお問い合わせください。
お母さんと赤ちゃんの健康を守るために、ワクチン接種をぜひご検討ください!
院長 山岡正慶